2016年2月15日月曜日

ヒエラルキー

癌とひと言で云っても、発生する部位によって、症状も様々である。全く別の病気と云っても良いだろう。僕の場合は、直腸とS字結腸の間にできたので、お医者さんによって、直腸癌って云う人と、大腸癌って云う人がいる。まあ、直腸癌の方が何となくカッコ良いような気がするから、ここでは、直腸癌ってことにしたいと思う。あの「北の湖理事長」と同じ病名だし。
 
 で、今でこそ、リンパに広く転移が見つかったんで、ステージⅢCとなっているが、当初は、癌も小さいんで、ステージⅠ扱いだった。直腸癌のステージⅠっていうのは、生存率も95%以上あって、手術で取れば直るんでしょ、みたいな扱いだ。しかも手術方法も腹腔鏡なんで、傷口も小さくって良かったね、って感じだった。つまり、ものす凄ーーく、簡単に考えられていたわけだ。

 僕の病院は、田舎には全然似合わないほどの、とっても大きな癌の専門病院なので、毎日何千人もの癌患者が通ってくる。その中でも僕は、ヒエラルキーとしては、最下層の癌患者なのだ。

 では、一体、ヒエラルキーの高い癌って何だろうって話題になったことがあったのだが、何と云っても「膵臓癌」だろうってことになった。膵臓癌になって生還した人なんて聞いたことが無い。膵臓癌こそキングオブ癌だ。あと「脳腫瘍」とか凄いよね。とか、「胆管癌」って何だろうとか、「小腸癌」なんて超レアな癌だと、きっと病院中の注目を浴びるだろうとか、まあ、無責任で勝手なことばかり話していた。

 どの病気でもそうだが、患者って云うのは、病気自慢をしたがる傾向がある。で、エレベーターなんかに乗っていると、「俺は肺癌でね。三分の一取ったんだけど、残りも悪くってさ、もう長くないんだよ。」なんていきなり話しかけられる。さすが癌の専門病院だ。「へえー、肺癌かあ、凄いな。」なんて、単純に思って「僕は、大腸癌なんです。」と云って、ペコリと頭を下げたりすると、これはもう完全にヒエラルキーだ。

 でも、どう考えても、大腸癌のヒエラルキーは、最下層から脱出できそうもない。患者数は多いし、ほとんどの場合、手術によって完治するし、話題だって「人工肛門にならなくって良かったね。」とかそんな話ばかりだ。

 ただ、癌というのは、転移する。直腸癌の転移先は、主に肝臓や肺だ。でも、例え肝臓に転移しても、僕は肝臓癌の患者として扱われることは無いのだそうだ。どこに転移しても、僕は、あくまでも、ヒエラルキー最下層の、直腸癌の患者なのだ。