2018年1月21日日曜日

まだ終わっていなかった、という話

明日が手術だという夜、病室でぼけーっとカレンダーを見ていたら、
同室のおじさんに声をかけられました。
おじさんは、2・3日前に手術をしたようで。個室から移ってきたところでした。
大きな手術のようでした。
って云うか、僕の腹腔鏡手術なんてのは、この病院では、最も簡単な手術ですから、
僕から見れば、他は全て大きな手術です。

「お兄さん、手術なんてのは、寝てる間に終わるから、何の心配も無いよ」
僕がぼけーっとしていたのが、思い悩んでいるように見えたみたいです。
そう言えば、さっき、看護師さんも、
「眠れなかったら、遠慮なく言ってくださいね」って言ってました。
たぶん、睡眠導入剤か何かを処方してくれるんだと思います。

でも、不思議と不安はありませんでした。
そりゃそうですよね。
ガン細胞を抱えて暮す方がよっぽど不安です。
それを明日は切除してくれると云うのですから。

ガン患者にとって、手術が出来ると云うことは、幸運なことです。
転移とか、血糖値が高いとか、肝臓や腎臓に慢性疾患があるとしてもらえません。
手術と云っても、その場しのぎのものもあります。
治癒を目指す手術が出来るというのは、幸せなことです。

「手術の時は、頑張るのは僕たち、患者さんは寝てるだけ。」
執刀を担当するお医者さんは言ってました。
ちょっと、オタクが入った感じの若いお医者さんです。
腹腔鏡手術は、モニターを見ながら、マニピュレーターを操作します。
コントローラーに僕の体温が伝わることはありません。
でも、テレビゲームとか得意そうですから、きっと上手くやってくれたと思います。

手術は、本当に寝てる間に終わってました。
手術室で点滴をつながれて、酸素マスクを着けた時、咳き込んだのが最後の記憶で、
眠いのに無理やり起こされて、しっかり息を吸ってと言われたのが、最初の記憶です。
その間に何があったかなんて、全く分からなかったし、夢も見ませんでした。
S字結腸を取り除いて下行結腸と直腸を繋いだように、
午前九時と午後零時を繋いだのです。
手術中の3時間は、僕にとっては切除された時間です。

あれから2年経ちました。
手術の痕も、ほとんど分からないくらいです。
50年前のヘルニアの手術痕の方がよっぽど目立ちます。
7階西病棟での生活が、随分昔のような気がします。
不思議と懐かしい思い出になっています。

先日、主治医の先生から電話がありました。
ポリープの中に癌があったそうです。
一年前は、何も無かったところに15mmのポリープが出来ていました。
20mm以上あったら、再手術になったかもしれません。
そのポリープが癌化していたというのは、想定の範囲内とはいえ
気分の良い話ではありません。
ギリギリのところで生かされているんだと云うことを、改めて感じた次第です。

そして、まだ終わったわけでは無いんだと云うことも。

2018年1月7日日曜日

僕はまだ生きているという話

年に一度の内視鏡検診で、ポリープを取ったので、年末年始は大人しくしていました。
正直に云います。
取ったことを言い訳にして、大掃除をサボりました。

ポリープが悪性ならば、連絡をしてくれることになっています。
大丈夫だろうと云われていますが、ちょっとは気になります。
こんな感じで、一年ずつ過ぎていくのでしょう。
まあ、定期的にポリープを取ってもらえると思えば、悪い話ではありません。

星野仙一さんが膵臓がんにより逝去されたというニュースを見ました。
70歳だそうです。
先月の後半に体調を崩されたそうです。
それから、わずか2,3週間での死ということになります。
在りし日の星野さんを紹介する映像の中に、つい1、2ヶ月前の姿がありました。
とても、お元気そうでした。
膵臓ガンの告知をされて、余命宣告等も受けていたと思いますが、
死の直前まで、懸命に活動されていたのだと思います。

羨ましい限りです。

死は悲しいことです。
死ぬより生きる方が良いに決まっています。
でも、死ななくてはならないなら、僕も癌で死にたいです。
最後の最後まで人間らしく生きて、呆気なく死にたいです。
ポックリは困ります。
突然の事故死もイヤです。
僕だって、身辺整理くらいあります。

でも、今年も3ヶ月ごとの検診を受けると思います。
どうせ死ぬなら癌が良い、とか云って格好つけても、
やってることは逆のことです。

羨ましいという言葉は取り消します。
星野さんに失礼でした。