2016年12月30日金曜日

初日の出

 昨年の紅白歌合戦について、全く記憶が無いので不思議に思ったんですけど、考えてみれば、直腸ガンの手術をしたのが、昨年の12月25日でしたから、大晦日は、ベッドの上で過ごしていたし、消灯が22時でしたから、全然見てなかったんですよね。っていうか、そんなことも忘れてました。僕の中でも、入院生活が少しずつ過去の出来事になってきたみたいです。

 年末年始の病棟というのは、空きベッドも多くって、のんびりとしたものです。お正月は家で過ごしたいというのが、一般的な心情でしょうから、患者さんの多くは、年末のうちに退院したり、一時帰宅していたし、手術も緊急なもの以外は行わないので、新たに入院する患者さんもいませんでしたからね。
 
 病院は、高台にあって、しかも僕の病棟は7階でしたから、見晴らしは最高です。病棟の東西南北、それぞれの廊下のつきあたりには、展望ロビーがあって、点滴スタンドをガラガラ引いては、そこからの景色を眺めるのが日課になっていました。
 僕は、退院日が1月2日に決まってから、東に面したロビーから初日の出を見ることを楽しみにしていました。

 天気予報によると、かなり期待が持てそうです。朝6時から検温がありますが、いつも通りの時間に来てくれれば、日の出には、十分間に合うはずです。

 検温が終わって、展望ロビーに座っていると、一人、また一人と爺さん達が集まってきました。男ばかり、5・6人は集まったでしょうか。
 病棟には、女性もいたはずでしたが、女性は、病棟から初日の出を見ようなんて考えないみたいです。

 やがて、東の空がどんどん明るくなって、稜線から太陽が顔を出しました。山登りをしていた頃にご来光を拝むことはあっても、初日の出を見に行くなんてしませんでしたから、人生初の初日の出になります。
 暖房の効いた病棟の中、絶景の7階ロビーから見る日の出は、ガラス越しとはいえ、それはそれは美しいものでした。
 誰一人として話をする人はいませんでした。手を合わせる人もいませんでした。ただ、黙って太陽を見ているだけだったと思います。
 太陽が昇りきったことを確認すると、一人、また一人と病室に帰っていきました。

 最高に楽ちんな、初日の出でした。

 あの時、一緒に日の出を見た爺さんたち、今も元気でいるでしょうか。

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